身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ~底辺家庭の東大受験~ 

塾なし公立中高一貫校合格。2024年塾なし【東京大学】受験。低学歴・低所得家庭の挑戦

ブログタイトル

MENU

東大実戦模試の夢~憧れと虚無感の先に~

 

白い壁に囲まれた部屋の席に着いた。

 

周囲には同じように何人もの人がいて、みんな真っすぐに前を見つめている。

 

ここは学校ではないけど、勉強をする部屋なのだろう。

 

ずいぶんと前に教卓と大きな黒板が目立っている。

 

秒針が時を刻む音を聞きながら目を閉じた。

 

遠くの方から「コツコツ」と歩いてくる音が聞こえ、誰かが机の上に何かを置いていった。

 

時を刻む音と心臓の鼓動がリンクして今にも破裂しそうだ。

 

息苦しく、たまらなくなって目を開けると、机の上には問題用紙と解答用紙が置かれていた。

 

 

【東大実戦模試】

 

 

あぁ、そうだった……今日は東大実戦模試の実施日だった。

 

「今までの成果が出せるかなぁ……全然できなかったらどうしよう……」

 

様々な思いが交錯して不安でいっぱいの心に「それでは、始めてください」の一言が突き刺さった。

 

四の五の考えても仕方がない。

 

全てを出し切るぞ!

 

「ふーっ」と、一つ息を吐き、問題用紙をめくると、すぐさまシャーペンを持つ右手を一心不乱に動かしていった。

 

まるで、交錯する不安を払拭するように、ものすごい勢いで手を動かしていく。

 

「気持ちをぶつけるんだ!今までの思いを全てぶつけろ!もう何も残っていないというくらい全てを出し切るんだ!」

 

そんな強い思いを持ちながら、必死で動かしている手の感触を確かめると、そこに強い違和感を感じた。

 

「あれ?何かがおかしい気がする……」

 

居ても立っても居られなくなり、違和感の正体を突き止めようとするが分からない。

 

問題を飛ばしちゃったのかなぁ……

 

どこか答えを間違えたのかなぁ……

 

いろいろと考えてみても分からない。

 

何だろう、この違和感は……

 

不安か……焦りか……それとも、緊張か……

 

いや、違う。もっと根本的なことだ。

 

 

感じている違和感を探っていくと、その原因が分かった。

 

 

「あれ、シャーペンの芯が入っていない……」

 

 

持ってきたはずの筆箱も見当たらず途方に暮れていると、自分の置かれた状況がうっすらと垣間見えてきた。

 

 

「あ、そうか、そうだよな。ここにいる人達は誰もが何かを犠牲にして挑んでいるんだ。それなのに俺は一体何を犠牲にしてきた?自分の人生をどこまで真剣に考えてきた?どんなに頑張ったって、何もしてこなかった俺に、こんな問題が解ける訳ないんだ……」

 

 

胸の鼓動が高鳴るほど思いをぶつけようとした。

 

何も残さず全てを出し切ろうとした。

 

それなのに、それなのに……

 

虚しさと心に穴が開いたような虚無感が襲う。

 

俺は一体何のためにこの場所へ来たんだ……

 

解けもしない試験をやるためにここへ来たのか?

 

周りでは、紙をめくる音や字を書く音が響いている。

 

 

さっきまで同じように手を動かしていたのに、今は一人で肩を震わせながら泣いていた……

 

こんなことをしていても何の意味も、価値もない。

 

価値?

 

価値だって?

 

こんな俺こそ存在価値がないんじゃないか?

 

 

そんなことを考えていると、後ろの席から声がした。

 

 

「ねぇ、君、どうしたの?なんで泣いているの?そんなに泣いていたら答案用紙が濡れて使えなくなっちゃうよ」

 

 

「どんなに頑張っても、俺には解けないんだ。シャーペンの芯すら入っていないんだよ。自分の名前だって書けやしない……」

 

 

「大丈夫だよ。僕の芯をあげるからさ……名前の記入欄は濡れてないだろ?ね、これで名前を書けるよ」

 

 

「え!いいの?ありがとう……」

 

 

「どうってことないよ」

 

 

 

振り返ると、そこには笑顔の息子がいた。

 

 

 

 

目を覚ますと涙で枕がびしょびしょだった……