誰かの役に立つのなら
心に残るエピソードと実践可能なアドバイス
至極当然の違い
同じ年代の子を持つ保護者が集まると共通の話題になる。
そう、それは学校だ。
中学生活が始まると、小学校と違って部活や定期テストの話が中心になった。
ねぇ、部活って何にした?
ウチの子はサッカーだけど、靴はすぐダメになるし、ユニフォームも泥だらけになるから大変よ!
そっかー。でもサッカーだったらお金掛からないでしょ? ウチは野球だからメチャクチャお金掛かるよ……
部活の話でエンジンが温まると、間髪入れずにテストの話でボルテージは最高潮になる。
定期テストどうだった?
ウチの子は全然勉強しないから点数悪すぎて……
ウチも同じ……2組の○○ちゃんが優秀らしいよ!
あぁねー、あの子は小学生の頃から勉強できたもんねー。
近所の奥さん連中の恒例行事
【井戸端会議】
いつもこんな会話で小一時間は盛り上がっている。
息子が通う公立中高一貫校も高校受験が王道の地方ではマイナーだ。
しかし、学校自体は有名なので、中高一貫校へ通っていることを伝えると
え!? あの学校行ってるの?
頭いいんですね
とか、ほぼ全員が同じような反応を見せる。
そこで追い打ちをかけるように、塾には行かず親子だけでやっていると言えば
え!? すごい!どうやったんですか?
どんなことをやってきたのか教えて……
と聞いてくる。
その度に伝えられることを伝えると、みんなが口を揃えてこう言った。
本を書いてみれば……
本を書けばいいのに……
本を書きなよ……
いや、いや、そんな簡単に本なんて書けないし、人様に対して偉そうに言えるほど大そうなことしてないですよ……
(うーん……この話をするとみんな決まって本を書けって言うけど、そんなに知りたいもんかなぁ?)
俺からすれば至極当然のことをやっているだけで、特別すごいことをしているなんて思っていない。
しかし、これだけ聞きたい人がいるということは、周りの親がやらないことを俺はやっているということなんだろう。
子どもが生まれてからどう子育てをすればいいか悩みに悩んだ。
一般的な人の悩みとは性質がまるで違う。
生きるか死ぬかの悩みだ。
何もかも気付いた時には手遅れで、自分の人生を無駄にしてしまった絶望感が纏わりついている。
振り払おうにもその術を知らない俺は、ただ延々と広がる暗い闇に閉ざされ塞ぎ込んでいた。
明日なんてなくていい。
いっそこのまま、家族揃って深い眠りについてしまえばいい。
【一家心中】
そんな言葉が脳裏をよぎるほど、極限の状態に追い込まれていた。
どうにもならない現実に抗おうと悩み続け、こんな家庭に生まれさせてしまった命に謝り続けた。
本当にすまない……俺は世の中で普通と言われることすらお前にしてあげることができない。
外食やコンビニは贅沢で、1年に1回の旅行にも連れて行ってやれない。
代わり映えのない日常で、ほんのわずかな幸せという家族の思い出も作ることができない。
あぁ、そうか、そうだった……
俺は小さな頃から、良い暮らしも普通の暮らしも知らないんだった。
みすぼらしく貧しい中で生きてきた俺からすれば、普通に生活ができている人達はみんな裕福だ。
そう思えば周りの人達から見える俺は特殊で、俺が持っている価値観は、一般的に見れば異常なのかもしれないな……